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歌姫・熊彦ものがたり(小倉南区)

挿し絵/yoco.さん(小倉南区出身)
1975年生まれ。画家・絵本作家。2000年に渡仏、パリにある私立アトリエで油絵を学ぶ。2001年、国際公募展「ル・サロン」油絵入選、2006年フランスボルドー市で絵本原画展を開催ほか。現在は、北九州市を中心に活動中。9月8日(木)~30日(金)正午~午後6時(月・火曜休み)、Blanc(ブラン/門司区西海岸1-4-16 TEL331・7783)で作品展を開催。

昔、香月の里に歌姫という美しい一人の娘がおりました。里の者たちはみんな、歌姫の美しさと心の優しさを褒めたたえていました。中でも熊彦という若者は、心から歌姫のことが好きでした。ところが歌姫は、里一番のお金持ちの娘。熊彦は貧乏な百姓でしたから、いくら歌姫が好きでも、めったに会うことすらできません。
ある春の夜のことでした。熊彦は、歌姫への思いを歌に込めて短冊に書き、その短冊を歌姫の屋敷の梅の木に吊るしました。短冊の歌を読んだ歌姫は、誰かは分からないけれど、その歌を作った人が好きになりました。このことを知った金持ちの息子のツタマロは、歌を作ったのは自分であると嘘をついて歌姫と結婚しました。悲しみのあまり、熊彦は企救(きく)の山奥に入り、滝に身を投げました。このことがあってから、歌姫は毎夜、高い熱に悩まされる重い病気になりました。

ある夜、歌姫は夢を見ました。山の中の滝つぼに身を沈めたら、大変気分が良くなる夢です。歌姫はその滝に行く決心をしました。夫のツタマロは心配し、古老に相談しました。「それは、歌姫どのが、その滝の白ヘビに見込まれているからじゃ。行かせなさい。でも、顔に墨を塗って行かせるがよかろう。そうすれば白ヘビも歌姫とは気が付くまい」と教えてくれました。
翌朝、歌姫は顔に墨を塗って出かけました。やがて、目指す滝にやって来ました。歌姫が滝つぼのそばまで来ると、水しぶきが飛んで、せっかく顔に塗っていた墨がきれいに落ちてしまいました。そして、美しい歌姫の素顔がしぶきに濡れてますます美しくなっていくのでした。それとも気付かず、歌姫は夢中で「きれいな滝」と感心しながら体を冷やそうと片足を滝に近づけたその時、滝つぼの水が膨れ上がって白ヘビが現れ、歌姫の体を巻いて、あっという間に滝つぼの中深く入ってしまいました。
それからというものは、化粧をした女がこの滝に近づくと、滝しぶきが激しくなって、みるみる化粧が落ちて「素顔」になるということで、「素顔の滝」と呼ばれるようになったということです。それがいつの頃からか「菅生の滝」と変わって今日まで続いているということです。

「北九州の民話」読み語り

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語り手
野口ジュンさん

 語り手は、小倉南区に拠点をもつ「劇団 響座『朗読家集団 読房(どくぼう)』」のメンバー。同劇団(代表:りゅう雅登さん)は朗読や語り物、音楽性をもった演劇の実験公演を行ったり、劇団の1階倉庫を改造して囲炉裏部屋を作り、民話の一人語りや群読、狂言風笑劇などを、地域の人たちに無料で楽しんでもらったりといった、地域密着の活動をしています。
今回の語り手は、同劇団の野口ジュンさん(若松区在住)。方言も取り入れた、味わい深い民話の語りを楽しんで!

参考文献「北九州むかしばなし」

このシリーズを始めるにあたって参考にしたのは、北九州市が発行する民話と伝説マップ「北九州むかしばなし」。 北九州市内の地域に伝わる民話42話を、ゆかりの場所の地図と合わせて紹介しています。A4版変型、87P、頒布価格1000円。ブックセンタークエストなどで取り扱い。詳細の問い合わせは、(財)北九州市芸術文化振興財団(問093・662・3012)へ。