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うなずくイヌ

うちのイヌは無駄に吠えるので、近所からのクレームが気になる。飼い主は娘。しつけがうまくない。だから飼うのを反対したのだ。でもその娘をしつけたのは私だから文句は言えない。

妻は「あなたは自分自身のしつけもヘタだ」と言う。目薬が切れたので妻に言うと「私の使っているものと同じのがあるけれど」と言ったので「下さい」と頼むと、「あなたは絶対私のと間違うから」と渡したくなさそう。「間違わないよ!」と応えると、「私の“予言”は絶対あたる」と自信タップリに“うなずき”ながら言った。

確かに今までそうだった。回覧板を妻の留守中に回すように言われた時も「忘れるだろうね」との予言は当たった。ひょっとしたら「予言は当たる。私はすごい」と妻が私に暗示をかけているのかもしれない。

催眠術師は「心理誘導」をして相手を意のままに動かす。例えば、私の長い教師生活で会得した術に「首の動き術」と言うのがある。簡単であるが効果は抜群である。うなずきながら話すだけである。すると相手は「イエス」と言うのである。「え、そんなウソでしょ」と思われる方はぜひ試してもらいたい。コツは相手に気づかれないようにさりげなく、ゆっくりと首を上下しながら話すのである。あごの先を意識するとうまくいく。最初は相手が「イエス」と言いやすい問いかけから始める。

失敗して落ち込んでいる学生に対してはこう切り出す。「(ゆっくりうなずきながら)確かにうまくいかなかったね」「そうなんです」「(ゆっくりうなずきながら)でも、失敗というのは脳が忘れないように覚えておくためにやるんだからね」「はあ」「(ゆっくりうなずきながら)つまりね。失敗する。そうすると今度は、身体に成功のエネルギーがドンドンたまる。顔つきが良くなる」「そうですか」「(ゆっくりうなずきながら)○○君、目に力が出てきたよ。ほらどう?」「そうですね。そんな気がします。はい」。こんな具合にうまくいくのである。

ここで気がついた。妻はよくうなずく。どこかで「首の動き術」をマスターしていたのだ。観察しているとイヌと話す時に首を振っている。飼い犬で練習していたのだ。 やっぱりイヌを飼わなきゃよかった。

中島俊介さんプロフィール

 北九州市立大学名誉教授
 臨床心理士・エッセイスト