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ふしぎな運命転換のまち

定年まであと2カ月。始まりがあれば終わりがある。

定年前の最後の講義を「最終講義」と呼ぶ。先輩のそれを何度か聞いた。どれもみごとであった。その順番が1月の末に回ってきた。しかしいざ自分がするとなると「あれも言いたい。これも言いたい」と欲が出る。聞きにくる先生方に、あなどられたくないという見栄も出て、まとまらない。その日の朝、駅まで送ってくれた妻に「まだ悩んでいる」と話すと「所詮、人間、あるものしか出んのよ」とピシャリ。確かに背伸びしても仕方ない。

いよいよその時。授業のタイトルは「心のふしぎ」。教室は満員だった。「ふしぎ」について話した。やはり、あるものしか出なかった。さいごは花束を頂き、芸人のように上着の内側に仕込んだ「アバヨ!(愛場与)」を見せて笑いのうちに終わった。北九州は「ふしぎな運命転換のまち」であることを学生に伝えたかった。私自身もこの街に救われた。私の母校も縁した会社も学園も全てが北九州市。人生を大きく幸福へと転換してくれたまちである。

その大きな証拠は昭和20年、小倉原爆にも明らかである。人類史上2度目の核爆弾搭載のB29 。25歳の機長は3度原爆投下を試みるも目標の小倉兵器廠は煙で見えないうえに、下から撃たれる正確な高射砲、築城と芦屋基地から飛び立つ戦闘機に阻まれた。小倉上空での必死の攻防。ついにB29は運命克服のまち長崎に。その時ポツリと機長、「3日の間に2度までも小倉のまちは救われたのだ」。

6日広島が曇っていれば小倉に。9日小倉に煙がなければ小倉に原爆が落ちていたのだ。2度の運命を転換したふしぎなまち。今の日本と世界の運命を転換する力をもつ地域で学ぶ自覚をもてと学生に伝えたかった。

最終講義が終わって、私にふしぎなメールがきた。講義に来て頂いた先生からだ。教室で財布を落として慌てたが、防災センターに学生が届けていてくれたそうだ。礼を言って下さいとのこと。ふしぎなことに気がついた。その心理学の先生の氏名と「さいふ」を組み合わせて語順を入れ替えると(たましいおつかふさ)「魂を使うさ」となった。お金より魂に共鳴する授業ができたと自分で納得した。地域での記念講演を小倉の名画座「昭和館」で3月8日に行う。映画と私の「平和講談」。きっとまたふしぎが起きる。

中島俊介さんプロフィール

 北九州市立大学名誉教授
 臨床心理士・エッセイスト