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禿げて良かった

2種類の学生がいることに気がつく。努力をするにつれて不安を高めしんどそうになる学生。努力を重ねるほど楽しさを感じる学生である。その差はどうも「失敗」に対する考え方の違いみたいだ。不安になる人は「失くすもの」「失敗」に注目しやすく、楽しくなる人は「得るもの」「成功」に注目しやすい。

失敗を気にしていると「防衛的悲観主義」と呼ばれる心のメカニズムを使うようになる。「どうせうまくいかないだろうと考えることで、失敗した時のショックを和らげ、成功した時には大きな喜びを得よう」とするのである。これはまずいやり方である。だんだんと情熱と活動の喜びを失う。

「どうせうまくいかないだろう」という否定語が脳と心を不活発にする。楽しく幸せに生きるには、「失敗への受け入れ」を勧めることが効果的である。日本の文化では「失敗は恥をかくこと」とされやすい。「恥もいいもんだ」を体験することが失敗恐怖脳を変えることになる。

先日少々の勇気がいったが、自分で試してみた。私の恐怖の一つは頭髪が無くなることだ。だからこの恐怖に対抗するには「あえて、禿げてみること」「頭髪のこだわりを開示すること」である。百円ショップで、頭頂部の禿げているかつらを購入した。

私は男性だから女性ばかりの大学で試す方がよりインパクトがある。女子大で試した。その当日。心理学授業の終わりに140人ほどの女子学生を前にこう言った「今日は特別に私の真の姿を見せてあげよう」と、一瞬の静寂。

教卓の背後にしゃがんで、禿げのかつらとくるくる眼鏡をつけ思い切って立ち上がった。どよめきと歓声。まるで俳優になった気分がした。これほどまでに注目され、授業の集中に成功したことは長い教師生活で初めてだった。感激した。

あえて恥を乗り越えると、「失敗や恥」は「爆破装置」のような危険で逃げなくてはならないものではなく、「びっくり箱」のようなワクワク感に満ちたものであるとわかる。それに向かって積極的に進むべきものである。しかし、このことも結果的には成功したのであるから、あえて失敗の経験を試みるのは本当に勇気と工夫がいるのである。

中島俊介さんプロフィール

 北九州市立大学名誉教授
 臨床心理士・エッセイスト