> > 技ありの人間関係 > 大学と傘とおじさん
 
 
 
 
「ためしてみよう!」と思った。雨足の強い昼休み、大学の学生食堂の入口は混雑していた。傘立てに傘を入れたまま食事をして、傘がなくなるかどうか試そうと思ったのだ。
その昔、私の学生時代に大学の中でカギをかけずに自転車を置こうとして、大阪から来ていた同級生にびっくりされたことがある。「とられへんのか?」「うん。大丈夫だよ。とるようなヤツおらんよ」。信じられないという顔。それから1時間後、戻ってきてもそのままだった。大阪ではありえないと言っていた。
あれから40年。今の時代どうなっているのか試したかったのだ。ところが、食事をして戻ると傘が見当たらないのだ。「エー! これが現実かぁ」とがっかり。ぬれながら研究室に戻った。
その日の夕方、パラパラ雨に変わっていた。夕食を食べに再び学生食堂へ。ひょっとしてと傘立てを見たら、何とそこに私の傘があったのだ。嬉しかった。さすが大学生。ちょっと借りただけだったのだ。私だってちょっと借りることもある。やっぱり大学はこうでなくちゃー。何だか嬉しくなって足取りも軽くなった。
大学は理想と憧れを追求し、強く、賢く、善良な人間を育てるところである。大学人としてその誇りと希望を失うわけにはいかないのだ。
私は家に帰って妻に傘の一件を自慢げに話した。すると「人を試そうとするなんて、よくないでしょ。それにあなたはボーッとしているから、きっと初めに置いた場所を忘れていたんだと思うよ」と言われた。