> > 技ありの人間関係 > 努力は" イカ"す
 
 
 
 
若い学生への実習指導は大変なようだ。実習先に既定の謝礼金を渡すのも、お金の渡し方を教えておかないと失礼なこととなる。言い方の指導。お金を渡しながら「さしょう(些少)ですが…」と言うように教えるのだが、普段使わない言葉なので「しゃしょう(車掌)ですが」と言ってしまい、園長先生に「運転手は僕だ…」と童謡にして切り返されたこともあったという。
ケガの巧妙もある。実習も無事に終わり、お別れにと風流な主任先生にお茶をたててもらった実習生、緊張のあまり「大変結構な“たてまえ”でした」と言ってしまった。歯に衣着せぬ学生と一目置かれてしまい評判は良かった。
園児にも実習生は人気者。話しかけると面白いからである。「先生、うちの犬は土佐犬なんよ。戦う犬なの。血統書付きだよ」「へーすごいね。いつも相手がいるんだぁ」「…えっ?」「だって、けっとうしょ(決闘書)付きなんでしょ」「…」。
ドラマチックで困難な実習体験は、学生が成長するチャンスでもある。昨年4月入学の1年生、ほぼ1年間の座学で培った力をバネに、この1月の実習に挑む。このコラムを読むころは、ちょうど実習期間中である。がんばれ実習生。指導の先生方に感謝。
2年生は、いよいよ今春卒業である。実習ではなく人生の本番に挑む。でも人が大きく成長するのはやはり困難な出来事に遭遇したときである。卒業前の学生は不安になるのだろう。よく質問される。「“努力は実る”って人生でも本当ですか」「それは絶対に正しいよ」と答える。
昭和30年代の若松。大晦日の丸一日、母親と幼稚園児の私は映画館にいた。借金の取り立てを避けてだった。造船業の下請けをしていた父の仕事は順調ではなかった。4年後、新しい仕事に就く父とともに博多に引っ越した。その年の暮れ、博多の川端通り商店街の帽子店で野球帽を買ってもらった。嬉しかった。あれは帽子を買ってもらった嬉しさというより、父母の笑顔に、家の暮らしが楽になっていくことへの兆しを見たからだろう。父の口癖だった「努力は報われる。冬は必ず春となる」は、現実となり私の家の信条となった。
実習中、特に後半は学生の体力も努力も限界に近付く。ある学生は、発熱と体のだるさに冷蔵庫から冷えて固まる氷まくらを出して、おでこにのせたまま寝入ってしまった。翌朝、目を開けたとたん解凍されたイカが横にあったのでびっくりして飛び起きたという。実習は家族だけでなく、イカも巻き込んでの総力戦である。