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パチンコが大好きなAさんにやめた体験を聞いた。ある日曜日、Aさんは、妻に頼まれ一人息子を理髪店へ連れて行った。理髪店の親父さんに息子を頼むと、自分はパチンコ店に。気がつくと夜になっていた。慌てて理髪店に戻ると子どもは家に届けたという。ホッとして帰ろうとするAさんの耳に、「しかし、一人息子を忘れるくらいパチンコやるかね…」。親父さんのつぶやきにドキッとした。
トボトボ夜道を歩き、玄関を開けて妻の顔を見るなり「おい! 明日からパチンコやめるけな」。その後30数年間、一切パチンコをやっていない。Aさんの心の中に何が起きたのか。心理学ではこれを洞察や気づきと呼ぶけれど、私は親父さんの声の力によるものだと思う。
「メラビアンの法則」として有名なのは、人が他人から受ける情報の割合である。表情・服装・身だしなみ(55%)、声の質・抑揚(38%)、内容(7%)である。話の内容よりその言い方と声に人は大きな影響を受ける。親父さんのあきれ顔の表情と声の力が、Aさんの心を打ったのだ。
私にも耳に残る声がある。私の講演を一番前で父と聞いていた小学生、帰り際に手をつないだ父親に「おもしろかったねー」。この声音は今も私を励ましてくれる。
人生の意味を声の力によって得た人もいる。ヤンキー先生こと義家弘介さん。バイクの交通事故で死線をさまよう。病室のベッドの上、顔にかかる涙で気がついた。そこに、4年前の高校時代の恩師の顔があった。彼女の声が耳に飛び込む。「死なないで! あなたは私の夢だから」。その瞬間「長い間探し求めていたものに包まれた気がした」と義家さんは後年語っている。気持ちを伝える声の力はどうやったらつくのだろうか。
ボイストレーナーの亀渕友香さんは「エネルギーがあってバランスの良い声に人は集まる」という。そのためには“ゼロの声”を出せるようになることが大切らしい。できるだけ無心になり、静かにしてから発声したときの声である。朝の太陽の光を一杯に受けて何も考えずに「あーあーあー」。これが“ゼロの声”である。これが出せるようになると、次に朝の挨拶をきちんとする。“ゼロの声”に気持ちを乗せる訓練である。
練習をしていないとこんなことになる。学生に聞いたアルバイト中の話。厨房の人はホールの私たちに客足を心配して尋ねた。「今何組?」。2組しかお客はいない。確認して伝えようとしたら、隣りにいたアルバイトの高校生、「今ですか。3年4組です」。