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日本の形「だえん」

小学校の教師時代に運動場で「円」を教えたついでに「楕円」に挑戦した。離して立てた2本の棒に輪にしたロープをかける。この2本の棒が中心になる。3人目の子どもがゆるやかな輪に自分の棒をかけてピンと張り、その3本目の棒で地面を削りながら1周走るときれいな楕円ができあがる。

つまり楕円は中心(焦点)が2つあるのだ。子どもは中心が1つの円を学んだ後なので、中心が2つあるこの面白い形に感動する。

世の中の多くのことはこの楕円のようになっている。相矛盾する2つの中心点が常に存在する。円のように中心は1つではない。夫婦関係も同じである。夫と妻のどちらもが中心である。私はこの「中心が2つ」を実感するまでずいぶんとかかった。

妻に言われたことがあった。「あなたには名前の変わる哀しさは一生わからんよね」。ショックだった。確かに結婚しても私の姓は変わっていない。妻を中心に姓を考えたことは一度もなかった。

楕円では中心の2点からの距離の和が、いつも同じになる。幸福を分かち合うのが楕円の軌跡。夫婦円満ではなく「夫婦“楕円”満」と言った方が正しいかもしれない。その原理がわかると対話が格段にうまくなる。

例えば妻が私に「食べるときによく噛みなさい」という。私中心なら「いつもうるさいな」と答える。妻中心なら「はいはい。ごもっとも」で終わる。2人が中心なら「そうやな。よく噛まんと身体に悪い」と、相手も立てて自分も大事にする言い方に変わる。

親子の関係も楕円である。不登校の子どもに悩むお母さんにアドバイスして感謝されたことがある。子どもが何を言っても、まず次の言葉を返しなさいと言ったのだ。「そんな考え方もあるんやね」。

例えば「東京に行って歌手になる」と子ども。「そんな考え方もあるんやね」と親。中心の1つとして考えを重んじられた子どもは、自信を回復して現実的になる。今では専門学校に進学している。

楕円の世界は時間と空間を超えても成り立つ。映画「永遠の0(ゼロ)」を観た。今年NHK大河ドラマで黒田官兵衛を演じる岡田准一が主人公。60年前に特攻で亡くなった青年と現代に生きる青年。2つの中心が描く「戦争と平和」を考えさせられた。団塊の世代は若い人、学生を伴ってぜひ2人で観てもらいたい名作だ。そういえば、「ゼロ」の形は楕円である。

中島俊介さんプロフィール

 北九州市立大学名誉教授
 臨床心理士・エッセイスト