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底にある危機

インド映画をみた。「きっと、うまくいく」。あっという間の3時間。ハリウッド映画とは違う表現の底にある豊かさにいつも大満足である。競争原理にドップリつかってイライラしている学生にぜひ見に行くように勧めた。

表現の奥深さと言えば学生に授業の感想を出欠カードの裏に書いてもらっている。先日も授業を終えた夜にいそいそと居間でカードをチェックしていた。1枚1枚読むのが今の教師生活の喜びである。

「ビデオを見て泣きそうになりました」「いいことばをもらいました」。ほめられるのはいくつになっても嬉しい。授業の構成が「うまくいったなー」と生きがいを感じる一瞬である。

ところが肯定的なコメントが200枚程ある中に、1枚だけ「この映像は気持ち悪い…」と否定的なことが書いてあった。

「ええ!あのビデオでこの感想」。水をかけられたような気持ち。ショックを感じた時はかみさんに話す。おおむねスッキリ解消するからだ。「見てよ、この感想。どんな感性なんだろう」と。

すると妻は「それも正しいでしょ。自分が正しいが怒りの元。他の学生はおべっかを使っているかもしれない」。ムッときた私は「それはない。この意見は間違っている」と言い返したがあとから考えると確かにそうだ。しかし、読む私の心理も思いやってほしい。表現の底に愛がほしいと未練がましく思った。

次の学生の感想にユーモアを感じるのは根底に人間愛があるからだと妻にみせたら「これは愛ではない。他人の不幸は蜜の味。それだけよ」と切り捨てられた。皆さんはどう思われますか。

『とあるデパートのトイレに行った時の話。私の横に小太りの中年男性が暴力団の下っ端のおじさんがわきにはさんで持ち歩くようなバッグを持ってきました。そしてそのバッグを芳香剤が置いてあるような棚が目の前にあったのでそこに置いて用を足しはじめました。

するとバッグがバランスを崩して前方向に倒れ、おじさんの腹に当たってバウンドして便器の中に落ちてしまったのです。もちろんおじさんは用を足している真っ最中なので『あ~! あ~!』と叫んでいましたが、なかなか止まらなかったようでバッグは直撃を受けていました。よくよく見るとそのバッグはルイ・ヴィトンでした』

中島俊介さんプロフィール

 北九州市立大学名誉教授
 臨床心理士・エッセイスト