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山芋(病も)いいもんだ

「いいですね、昨日より右手がさがりませんね」看護師さんの一言で嬉しくなる。マヒした右手が回復してきたのだ。忙しいのと無理がたたって、脳こうそくで入院となった。幸い早い処置とダメージの場所が良かったので半月ほどで退院できた。

再発のリスクが高く、2度目は後遺症がひどくなるので「ノウこうそく、ノウリターン」と言われる。私の前のベッドの人は、3度目の入院で、病院のスタッフに「しばらく来ないから、心配しとったとよ」と冗談を言われていた。

予防は生活の改善。毎日の睡眠時間を長くする。それに栄養の管理である。人間は「血管と共に老いる」。血管がボロボロになる最大の原因は食べ物だろう。ストレスも良くない。仕事に張り切り過ぎるのもいけない。

考えると不思議だった。ちょうど父が亡くなった同じ年齢で同じ病に倒れたことになる。死ぬところを父が助けてくれたように感じた。偶然にも入院中の病室は父と同じ年齢の人が4人、まるで父の分身と過ごす毎日だった。

私の幼年期の若松の思い出。満員で立ち見の映画館、音楽、お祭りと父がバリバリ働いていた頃の姿を思い出した。退院して映画「ツナグ」を観た。死んでしまった人と会わせてくれる案内人の話。一人だけ会えるとしたら、父と会って話がしたいと思ったのは入院したからだろう。

退院して杖を片手に歩いていると、のんびり生きるのもいいもんだという小さな悟りを開くことができた。病気のおかげである。映画の中で女優の樹木希林(きききりん)さんの詠む詩が素敵だった。

パンフレットの最後に紹介してあった。その一節「…人の為に働くよりも。謙虚に人の世話になり。弱って、もはや人のために役立たずとも。親切で柔和であること。老いの重荷は神の賜物。…」身にしみることばだった。

退院後、授業や講演会のまくらの話が増えて助かっている。「いやーびっくりしました。都市高速は乗ったことありましたが、“のうこうそく”は初めてでした。“のおがた”と“おりお”の間を結ぶ、“の・お・高速”かと思いましたよ(笑い)」。高齢者大学校では「小さい頃はロカビリーでしたが、今はリハビリーですわ(笑い)」「脳には山芋。どうしてかって!」

中島俊介さんプロフィール

 北九州市立大学名誉教授
 臨床心理士・エッセイスト