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「人生! ことばの力で前進」

「どうして蹴るんですか!」  通勤電車の中。隣に座った女性のことばにびっくりした。出入り口近くに座る女性の足先が前に伸びていてじゃまになり、降りようとした男性が女性の足を蹴ったのだ。

「おりる人のじゃまやろが、ひっこめろ」。すると、女性「足がしびれているんです」。男性負けずに「お前病気か?」すると女性「病気なんです」。男性、一瞬ひるんだが…「書いとけや!」と言い捨てて電車を降りた。

次の駅で降りた時、確かに女性の足は邪魔になった。なぜ蹴られたのかわからないのも悲しいけれど、男性も蹴らずに「お嬢さん、きれいなおみ足だけど…」とでも言えば違う展開になったかもしれない。

人を動かすには「役割の力」と「こころの力」が要る。私たちがおまわりさんや看護師さんの言うことを聞くのは役割の力を持っているからである。でもこの力だけでやっていると「威張っている」と嫌われる。もう片方の「心の力」も使いたい。

現代においては心の力は「ことばの力」である。テレビの面白い実験。バンジージャンプに挑戦する男性に下から若い女性たちがことばを叫ぶ。はじめの3人には「がんばって!」。次の3人には「カッコいい!」。決断実行までの時間を比較する。

「がんばって!」で応援された最初の男性。「お前跳んでみろや、どれだけ怖いか…」とつぶやき11分42秒かかる。「がんばって」組の3人の平均9分39秒。「カッコいい!」と叫ばれた男性「言われ慣れてないな、カッコいいとか…」で1分21秒で跳びおりた。3人の平均は何と2分33秒。男性は女性に「がんばって」と言われるより「かっこいい」と言われた方が4倍早く動くのである。

新入社員時代に上司に言われた最も重圧を感じる言葉ランキングが発表されていた。対象は入社2年目20代の社員。1位は「言っている意味、分かる?」。2位「そんなことも分からないのか」。いずれも人の能力をバカにしたことばである。人間は今の自分を「かっこいい」と認められて前に進める。

新人のあふれる春。緊張でしびれて動けない若者や加齢でしびれているベテランもいるかもしれない。「ことばの力」を信じて大いに「かっこいい!」を叫ぼうではないか。

中島俊介さんプロフィール

 北九州市立大学名誉教授
 臨床心理士・エッセイスト