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「でも男だからだめかも」

講演先での出来事。男の部長さんはしみじみと言った。「3年の単身赴任を終えた。久しぶりの妻の弁当に“ありがとう”と言ったら、妻に“今まで言われたことがない”と言われびっくりしたんです」。

初めて「ありがとう」を言ったことのない自分に気がついたという。人間は当たり前のことだと思っていることには感謝しない。

先日、腰をひねった瞬間いやな感じがした。案の定、ぎっくり腰だった。靴下もはけない、寝返りもソロソロという生活が数日続いた。普段、当たり前に動く“腰”に感謝などしたことがないことに気がついた。もちろん“ありがとう”と声もかけたこともない。

当たり前に慣れることには気をつけたほうがよい。当たり前を支えているものや人が見えなくなる。どうも男性は当然だと片づけがちだ。その点女性は、支え育む特質に優れるからか、どんなに当たり前な状況でもそれを支えるものを見失わないようだ。特に平和と文化については優れた直感をもつ。

歴史をみてもそうだ。1941年、アメリカ議会は日米開戦を審議した。真珠湾攻撃によって当然起きた、日本たたくべしの意見にたった一人反対したのはアメリカ初の女性議員、ジャネット・ランキンさん。388対1。

2003年イラク戦争開始にあたり、議会全体が「テロリストと戦争をするのは当然だ」という中でたった一人だけ異を唱えたのは女性議員のバーバラ・リーさん。420対1。

みんなが戦争を望むときに戦争の悲劇を忘れないで反対を主張する。この平和の文化を守ろうとする勇気はどこから来たのか。リーさんは「合衆国憲法を読み返しました。その精神に沿った行動をしただけです」と言った。

11月3日の文化の日。私は大学祭で学生と楽しく小倉祇園太鼓を叩いていた。この平和と文化を味わえるのも、また戦地でわが子や教え子が人を殺したり、殺されずにすんでいるのも陰で支える憲法のおかげである。あまりに当然過ぎてそれらへの感謝などすっかり忘れていた。

文化と勤労感謝の11月、この国を支える全てのものに感謝し、それを守る勇気を出したい、と痛めた腰をさすりながら決意を新たにしたのである。

中島俊介さんプロフィール

 北九州市立大学名誉教授
 臨床心理士・エッセイスト