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「勇気は出すものダ!」

テレビをつけると、ジャーナリストの鳥越俊太郎さんが出ていた。勇敢に正論を述べてきた人である。ガンと闘いながら自分の最後の曲を探す旅番組だった。着ている服は変わっても同じピンバッジを胸につけている。漢字ふた文字。書家、矢野きよ実さんの書いた「無敵」。ガンの恐怖と共に生きる。鳥越さんは「勇気の人」だ。

人生の岐路やピンチに立った時に試されるのは「勇気」。こわくないのが勇者なのではない。ふるえながらでも「一歩前に出る人」が勇気ある人である。

今公開中の日本映画「はやぶさ」を見た。7年間、60億キロを飛び帰還した小惑星探査機の実話を元にした映画。そのパンフレットの最初には「あきらめない勇気を与えてくれたのは、君!」とある。あきらめないのも勇気なんだ。

勇気という言葉にはさまざまなものが詰まっている。勇敢だけではない。忍耐するのも、勤勉なのも、コツコツ努力するのも、情熱を持つのも、協力するのも、いつも必要なのは勇気である。希望はもつもので勇気は出すものらしい。

私と違って妻は昔から勇気を出していた。若いころ一緒に映画に行った。後ろの方の席でいかにも暴力団風の男性2人、上映中に一人が客席でタバコを吸い始めた。前の席で気がついた妻は煙を散らすように手を大きく振って、不快感と抗議を示した。私はその手を引っ張ってやめるように促した。勇気と正義は一体となっている。つくづく自分のふがいなさを思い知った。

使えば使うほど身体の力は強くなる。勇気もそうだ。小さな勇気を積み重ねていけばいつかビックリするほどの勇敢な自分に変わっていけると恩師は言った。ふるえながらでも一人で立ち上がって「間違っている」といえる自分になったのだろうか。あれから40年、妻は今、ますます無敵である。

正直であることも勇気である。本で紹介されていた「勇気の一言」。おしゃれして出かけた女性。ホームで「奥さん」と声をかけられた。「何ですか」と振り返ると、見知らぬ若い男性。近づいてきて耳元で囁いた。

「奥さん、ストッキングに“いりこ”が入っていますよ」。私もこんな声をかける勇気を出したい。

中島俊介さんプロフィール

 北九州市立大学名誉教授
 臨床心理士・エッセイスト