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「笑顔の人生のコツ」

スポーツ心理学ではテニスをする人は心の中でもテニスをするという。こころの中に二人の自分がいる。一人は「もっとボールを見ろ」「わきがあまい」などと指示や評価をする人。これをセルフ(自己)1という。その横でテニスをしている当人をセルフ2とした。外でやるアウターゲームに対して、心の中でのこのゲームは「インナーゲーム」と呼ばれる。

面白いのはセルフ1の話す言葉はふだんコーチや他の人がよく言う言葉だという。「だめじゃないか」とよく言われる選手は否定的な言葉を言うセルフ1を心に住まわすようになる。セルフ1は理論家のコーチ。正しいことも言いすぎると、かえってセルフ2を混乱させ自己否定させる。言われるセルフ2は脳機能に素直な感覚人間。

インナーゲームで明らかになったのは、会心のプレイはセルフ1が黙っているときに起こるということである。無心のプレイが実現される。良いセルフ1の態度は、沈黙することだ。この理論はスポーツだけでなく子育てや人を育てる教育界でも参考になる。また自分の生き方のヒントになる。セルフ1を黙らし生き生きするには、目の前の日常的な体験に感動的に感覚的に反応して生きることのようだ。

いつも不思議に思うことがあった。タクシーにのって運転手さんに話しかける。「なんか。ワッと笑えるような話はないですかね?」。すると「ないですよー。こんなご時世に、笑える話なんかないですよー」。面白いのはその次。どんな気むずかしそうな運転手さんでも必ず笑うのである。

どうしてだろうかといつも不思議に思っていたが、インナーゲームの考え方で納得した。お客さんの「何か面白いことない」の普段あまりされない質問に運転手さんのセルフ1は虚をつかれて黙ってしまう。その間に自由になった感覚人間のセルフ2が生き生きと動き出しつい笑うのだろう。

気むずかしい生き方が変化する瞬間を観た学生の話を聞いた。
 「高校の部活の先輩はとてもきむずかしそうで話しかけにくい人だった。ある日部室の掃除をしている時、冷蔵庫から賞味期限切れのお寿司が出てきた。すると先輩は笑顔になって『時すでにおすし』」

中島俊介さんプロフィール

 北九州市立大学名誉教授
 臨床心理士・エッセイスト