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「中島川」

「どんとドンとどん…」小倉の町に太鼓がひびく。今年も祭りに出たい学生を町内にお願いした。「太鼓インターン」である。祇園太鼓の山車の旗に「天下泰平」とあった。平和を祈る祭りはステキだ。

近頃歳のせいか、「平和」(暴力の不在)のふた文字が身にしみる。暴力は3つ。いじめや原爆は直接的暴力。びんぼうや孤独死は構造的暴力。一番やっかいなのは「文化的暴力」。他の暴力を「仕方がない」と思わせる暴力である。これと対決するには「文化的平和活動」が一番有効で楽しい。ある歌手は「すべての武器を楽器に」と訴えた。

門司在住の直木賞作家、佐木隆三氏が初めての絵本を出した。「昭和二十年 八歳の日記」佐木少年8歳、新型ばくだん・広島の原爆を巡る日記である。絵は日本を代表するイラストレーターの黒田征太郎氏。佐木さんは本学地域創生学群の特任教授でもある。講義で学生にこの絵本を読み聞かせしながら、うたわれた「りんごの歌」は学生の心にしみ入り、原爆の怖さと平和の尊さを刻んだ。

絵を描いた黒田さんは、「自然のなかのひとつであるヒトに自然の元である太陽のマネはできない」として「陽が昇り陽が沈む。その間をささやかにイノチが生きる」と記している。

先日、福島空港に行った。「うつくしま・ふくしま」の植物文字が迎えてくれた。筑波大の友人と合流して、「久の浜」に入った。原発から避難区域ぎりぎりの海岸線だ。穏やかな海と初めて見る悲惨の一語しかない風景。ポツンと営業している食堂があった。海水をかぶった畳の上にすわった私に、お店の女性はきっぱりと言った。「娘と孫には来てもらっては困るけれど私たち年寄りは、ここに住むよ。老い先短いからね」

私は玄海と博多の海を見ながら育った。父は造船業、海辺の病院で逝った。海という漢字には母がある。すべてのイノチの源は海を母として誕生し、また海にかえる。福島の海を見ながらそのイノチを守りたいと思った。忘れてはならない。

8月9日11時2分。視界不良で小倉に投下できずに長崎に落とされた原爆。同じ日時に、室町の長崎街道起点「常盤橋」の上で、今年も学生が平和太鼓を叩く。イノチの音を聴いて頂きたい。

偶然と縁。長崎の投下目標は「常盤橋」。その下を流れる川の名は…。

中島俊介さんプロフィール

 北九州市立大学名誉教授
 臨床心理士・エッセイスト