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「未来は不思議と懐かしい」

卒業した高校の生徒に話すことになった。前もって、ゼミ生に今までの講演の印象を聞いた。「どこの誰だかわからない人が来て、聞いても聞かなくてもいいような話でした」。がっかりとガンバローの複雑な気持ちででかけた。

講堂に入ると、高校生1200名。演題は「今を生きる」。「講師の先生は…」校長先生の声だけが静まり返った講堂に響く。「このオッサンの自慢話に付き合うんかいな」というような顔、顔、顔。今までの経験では、凍りついた空気には「つかみの笑い」である。学生に聞いたユーモア話をした。

「幼いころ、近所に住んでいた一人暮らしのおじさんに、お菓子をもらったり、一緒に話したり、良くしてもらっていたのだが、ある日おじさんの庭に干してある下着を見たとき、おじさんはおばさんだと知った」200名が笑った。

「温泉で、お風呂上りに10分100円のマッサージ器があったのでやってみた。力が少し弱かったのでリモコンで“強”ボタンを押すが強くならない。押し続けたら逆に弱くなっていく。電源が切れたのかと思い横を見ると、隣のマッサージ器に座っていたオバサンが激しく揺れていた。リモコンが入れ替わっていて、強くなってきたので弱くしたいオバサンは“弱”を押し続けていたのですが、逆に強くなるので混乱していたそうです」800名が笑った。

次におばあちゃんネタ。「友達と一緒にデジカメを買いに行った。嬉しくて家族に『デジカメ買った』と言いまくったらその夜、おばあちゃんが部屋に来て『これデジカメにあげな』とキャベツを持ってきた」1200名が笑った。

本題に入った。「過去は常に新しく、未来は不思議と懐かしい」過去は現在の解釈で変わり、未来は今一瞬の思いの中にある。今この瞬間に、君が「○○になろう」と思い、母校で話をするのだと決めたとする。そして将来、君がこの場に立った時、君は「懐かしい」と感じるだろう。未来は今一瞬の志の中にある。「今を生きよ」と渾身の想いで話した。

「講師の先生が中央の通路を通って退場します」拍手の中、会場真ん中まで来た時、さっと一つの手が差し出された、握手をした。顔をちらっと見た。それはまぎれもなく46年前の僕だった。

中島俊介さんプロフィール

 北九州市立大学名誉教授
 臨床心理士・エッセイスト