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「若者よ、困難に耐えよ」

4月、いろんな出会いや辛いことがある。今から40年近く前、大阪に転勤になった。言葉が違い、異国に来たようで心細かった。不思議なこともしばしば起きて驚いた。新しい自転車のベルのフタだけが消えた。玄関前の傘がすぐに蒸発したのにもびっくりした。

入社2年目で初めての営業職。客との世間話はうまくできない。電話の応対もスムーズでない。自分の未熟さが身にしみた。先行きの不安と劣等感ばかりが大きくなった。  もんもんとしていた時、出張帰りに立ち寄った和歌山城で、足元の虎伏山(とらふすやま)にちなんで建てられた虎の像に出会った。

私がトラ年だからか、伏せた大きな虎の像はいきなり話しかけてきた「オレをしっかり見ろ。ゆうゆうと伏せていればよい。必ず雄飛する時がくる」。その言葉と伏せた姿勢は心の中にしみ込んだ。私の胸の中で辛さに耐える力と大きな希望と勇気になった。薄っぺらなプライドを粉砕してくれたのだ。

それ以来つらいときにはいつも伏虎を思い出した。おかげで妻の厳しい言葉にも身を伏せてやり過ごすことができた。職場の人間関係に悩んだ時も「ネコに虎はわかるまい」と伏せていた。

40年近く人生を導いてくれた虎にお礼を言いたくて、先月和歌山城に立ち寄った。10年前に1回行ったことがあったけれど、城内が広くてどこにあるかわからなかった。和歌山城に行ったことのある人に聞いても「そんな像は知らない」という。夢だったのかしら。不安に思いながら大手門から入ると「やっぱりいた!」嬉しくて大きな手を何回もなでた。

私は虎の一言に救われたけれど、店員の一言に「泣き伏した学生」もいるようだ。  《料理をする際、サラダ油がない事に気づき、コンビニに行った。サラダ油だけを買うと、店員が「ストローはおつけしますか?」と言ってきた。デブだけど油は飲まねーよ。僕は帰って枕をぬらした》

彼に言いたい。負けるな。枕を抱いて伏せていればいい。きっといいことがある

中島俊介さんプロフィール

 北九州市立大学名誉教授
 臨床心理士・エッセイスト